酪農業界の壁を超えた産直関係へ

下郷農協

日本初の産直共同購入事業のはじまり

下郷農業協同組合(大分県中津市耶馬渓町)は、農地解放によって自分たちの農地を持つことが出来た小作人だった人たちによって、1948年(昭和23年)に設立されました。その後、1952年(昭和27年)に、長野県伊那地方の若者25人が開拓団として鎌城(かまぎ)地区に入植し、下郷農協の組合員となりました。そして、やせた土地を開墾するために乳牛を飼育し、堆肥を活用しつつ、乳牛を増やして酪農を開始し、搾乳した生乳を乳業メーカーへ販売していました。

しかし、販売する際の価格交渉で辛い思いをしていました。乳業メーカーをかえても、価格交渉で安く買われることになっていました。そこで、「生乳を乳業メーカーに販売しても未来がない。自分たちで牛乳を作って販売しよう」と考え、下郷農協で牛乳工場(当時、びん牛乳)を建設し、成分無調整の牛乳の生産を開始しました。

生産した牛乳を都市で働く地元出身者へ届けるため、北九州市などの工場へ配達を始めました。すると「おいしい」という評判が広がり、利用者が増えていきました。そして「野菜やたまごなども配達してほしい」との要望を受け、牛乳以外の商品も配達することとなりました。

「農協が農村の農産物を都市の消費者に販売し、都市の消費者は農村(農協)の生産者と交流する」。

下郷農協は日本で初めて、生産者と消費者の「産直共同購入事業」を創り出した農協です。

下郷農協と歩む、新たなステージ

2008年、下郷農協が経営難に陥っていることをグリーンコープは知りました。その後、下郷農協を訪問し、2009年からお米や野菜などの産直取引を開始しました。そして2021年の春、「産直びん牛乳が供給できなくなるかもしれない」という事態に、グリーンコープは直面しました。

グリーンコープは、産直青果や産直畜産物と同じように、酪農生産者とも直接の産直関係、直接に取引きすることを、ずっと願ってきました。しかし、酪農業界の特殊性(指定生乳生産者団体の一元集荷多元販売)の中で、酪農生産者との直接の産直関係を作ることが許されることはありませんでした。

そのような中、下郷の地で酪農を営む下郷農協の酪農生産者たちは、安心・安全なnon-GMO飼料を給餌した生乳を生産し、また、「一元集荷多元販売」という業界の仕組みに頼らず、生産した原乳を無駄なく活用する責任を自ら担い、生産者、農協、消費者が協力して生乳を利用し続けていました。この関係こそ、私たちが目指してきた、酪農生産者と消費者(組合員)が支え合う理想の形でした。

ですので、2021年の春、「産直びん牛乳が供給できなくなるかもしれない」という事態に直面し、「これを機会に酪農家と共生・連帯の関係をつくりたい」と考えた際、真っ先に思い浮かんだのが「下郷農協」でした。

その後、下郷農協と下郷農協の酪農生産者との話し合いを開始し、2021年7月中旬に「グリーンコープの産直びん牛乳に必要な生乳を生産する1,000頭規模の酪農場の建設に取り組む計画を立てる」ことを合意しました。

下郷農業協同組合 代表理事 玉麻 農夫男さん
下郷農業協同組合 代表理事 玉麻 農夫男さん